第29回日本心血管インターベンション治療学会:CVIT 2020 学術集会 大会長
片平 美明 公立刈田綜合病院(当時) 緑の里クリニック(現)
はじめに
CVIT東北地方会の支部長である中里和彦先生から,「CVIT東北地方会のホームページで,歴史であるアーカイブの部分の充実を図りたい」とのことで,2021年に大会長を務めさせていただいた「第29回日本心血管インターベンション治療学会 CVIT2020 学術集会」ついて投稿の依頼があり,このような形で掲載させていただけることとなりました.私自身も大会を行なった経過を残しておいた方が良いかと考えておりましたので,このような形で記録として残させていただけることを,支部長である中里先生をはじめとする関係の方々に深く御礼申しあげる次第です.
2021年2月19日 一通のメール
「第29回CVIT, CVIT2020会長 片平美明先生 御侍史
緊急事態宣言の中CVIT2020開催大変なご苦労お疲れ様です.プログラムも平時となんら変わりなくとても充実されていて驚きました.中でも加藤敦先生の若き日の動画は,幾度かの仙台オープン病院の訪問を思い出し,瞼が重たくなりました.きっと天国の敦ちゃんも片平先生の優しさと心遣いに感謝されていると考えると涙が出てまいりました.大変感謝しています.ありがとうございました.
豊橋ハートセンター 鈴木孝彦 拝」(原文のまま掲載)
Web開催となった2日目(2021年2月19日)の午後2時半,一通のメールに気がつきました.差出人は豊橋ハートセンター鈴木孝彦先生でした.1日目の午後に入り,有料の参加者数が4,500名以上となり,運営上の採算ラインと読んでいた有料参加者4,000名を超えたころで,このままいければなんとかなるかなと考え始めていた時に,普段メールでのやり取りはほとんどなかった鈴木孝彦先生から上記のメールをいただきました.私のメールアドレスを調べてわざわざメールをしていただいたのではないかと思っております.以下が返信のメールです.
「豊橋ハートセンター 鈴木孝彦 先生
メールありがとうございました.震災の時には,先生方が,東北に応援にこられ,われわれにとってはとても勇気と希望を頂戴することができました.コロナ感染症のため,CVIT総会では初めてのWeb開催となっておりますが,大きなトラブルが起きないかどうかヒヤヒヤしながら,進めております.先生方にささえられてのCVIT総会ですので,どうぞよろしくお願いいたします.
片平美明 拝」
初めてのWeb開催になったCVITの総会で,対面での開催では容易に確認できるはずの参加されている先生方の反応をなかなか掴みきれないことを実感していた頃で,Zoomのモニター画面で各セッションの参加人数を見つめながら,各セッションが進行していくのをただただながめておりました.こんな中で,鈴木孝彦先生からのメールは,用意していたいくつかの配信用のコンテンツが参加されている方々に届いていることを強く実感させてくれることになりました.
2018年4月27日 惜別(東京・品川にて)
この日,品川プリンスホテルで開催されていたSlender Club Japan Live & Annual Meeting 2018に参加しており,その1日目の午後のことでした.会場で発表を聞いていると,背中をトントンとたたかれました.振り返るといわき市医療センターの山本義人先生で,「先ほど,加藤敦先生が亡くなられた」と一言.いたたまれない気持ちで,会場でそのまま発表を聞いていることができなくなり,ホテルの部屋に入り,いろいろなことを思い出していました.ホテルの部屋に一人で途方に暮れていた私に,山本義人先生から携帯に電話が入り,「一人でいるとろくなことがないから・・・と,懇親会の会場に出てきたら」と心配をしてくれました.とてもありがたかったです.
2016年7月6日のCVITの理事会で,CVIT2020の会長を引き受けることになったのですが,決まるまでにはさまざまな経緯がありました.私一人では開催することはできないのはわかっておりましたので,木島幹博先生,佐藤匡也先生,加藤敦先生に直接,「先生方が一緒にやっていただけなければ引き受けることはできない」ことをお話し,3人の先生にご了解をいただき引き受けることを決断しました.特に加藤敦先生は,仙台PTCAネットワークライブを一緒に行なってきていることもあり,一番頼りにしておりました.
2019年8月17日 はじまりの夏(秋田にて)
秋田県綜合保健センターで開催されたCVIT東北地方会の会場の中の一部屋をお借りし,CVIT2020のプロモーションビデオの撮影を行いました.今回の総会では,木島幹博先生にCVIT2020の名誉世話人,CVITの東北支部の代議員の先生18名全員にCVIT2020の世話人となっていただき,「東北からのメッセージ」としてインタビュー収録をしました.秋田の暑い夏で,窓を閉めても外から蝉の声が聞こえてくるような日でした.収録にあたり,ネクタイとジャケットのドレスコードをお願いしたのにもかかわらず,みなさんに心良く引き受けていただきました.収録・編集に際しては,映像会社CONTIの映像クリエーターである北村伊知郎さんにお願いしています.全員のインタビューを絵画のコラージュのように紡いでいただき,とても印象的なプロモーションビデオができあがりました.
2020年1月10日 漠然とした不安(ソウルにて)
韓国のソウルでKSIC2020が開催され,KSIC-CVIT Joint Sessionに参加をしました.予定が立て込み,2020年1月10日の朝一番のフライトで羽田からソウルの金浦空港に飛び,1月11日の最終便で羽田に戻る予定の弾丸ツアーになってしまいました.1月10日朝6時過ぎ,羽田空港内のホテルで目を覚まし,出国手続きを終えた後,出発のロビーで朝食がわりの温かいうどんを食べ,午前8時20分発のJAL091便で金浦空港に向かいました.金浦空港では,KSICのスタッフの方が出迎えてくれました.CVIT2020の大会長としての招聘でしたので,その日の夜のレセプションに参加し,韓国の先生方と楽しく歓談し,ホテルに戻りました.会場となったソウルのシエラホテルにはオランダからキムニー先生がいらしており,2020年6月に開催のCVIT2020で仙台でお待ちしていることをお伝えしました.1月11日,会場から金浦空港にタクシーで向かうと,夕方のソウル市内の渋滞に遭遇し,1時間近くタクシーに乗ることになりました.フライトの時間に間に合うかどうかをタクシーの運転手さんに聞いても,まったく英語が話せないようで,そのまま,何も話すことがなく,金浦空港に到着しました.金浦空港が目的地であったことだけは理解してもらえていたようです.到着した空港のラウンジのテレビでは中国で新型肺炎が広まってきていることがニュースで伝えられ,なにか漠然とした不安を感じながら,午後7時40分発のJAL094便で金浦空港を後にしました.
2020年4月2日 決断
新型コロナの感染拡大に伴い,CVIT2020を1年延期することを決断しました.ただ,その時点で2021年4月~8月で仙台国際センターを全棟使用できる日程が2021年4月27日(火)~4月29日(木・祝)しかなく,やむを得ず,この日程での開催とすることに決定し,CVIT会員への一斉メールを送っております.この時点では,1年後には新型コロナはある程度収まり,通常の開催ができるものと予想をしておりました.しかし,その後も流行はおさまらず,感染の収束にその後約3年の月日を要したことは皆さんもご存知の通りです.
2020年7月4日 CVIT-TV「CVIT2020 Online Late Breaking Seminar」の配信
2020年6月の開催に合わせた演題を募集していたLate Breaking セッションについて,このまま1年が過ぎてしまいますと「Late Breaking」ではなくなってしまうため,またWeb配信での反応を確認するために,CVIT-TV「CVIT2020 Online Late Breaking seminar」として視聴無料で参加点数をいただける企画として配信しております.結果は大盛況で,たくさんの会員の方に参加していただき,Web配信の有用性をあらためて認識することになりました.
2020年8月1日 完全Web配信への決断
この日,伊苅裕二先生,横井宏佳先生,CVIT事務局とでWeb会議を開いていただきました.その会議上で,CVIT2020をハイブリッド開催ではなく,完全Web開催とすることを決定させていただきました.また,変更した日程である2021年4月27日(火)~4月29日(木・祝)が週の前半であり,メディカル・スタッフの方の参加が難しくなることを考慮し,あらためて開催時期を2021年2月19日(金)~2月21日(日)に再度変更することにいたしました.それまでは,ハイブリッド開催と完全Web開催の2つについて同時に準備をすすめておりましたが,両者を並行して進めることは費用がほぼ倍増してしまうことが判明し,どちらかに決めなくてはいけない時期が近づいてきておりました.
この頃,NHKのテレビをはじめメディアに多数登場していた東北医科薬科大学の賀来満夫先生が公立刈田綜合病院の呼吸器外来に1回/週できており,2020年7月22日,改めて,今後のコロナ感染の予想と,5,000名規模の学会を2021年4月に仙台で開催可能かどうかについてお伺いいたしました.その結果ですが,「おそらく,無理でしょう」とのことでした.どのような形での開催が良いかについてもお伺いしましたが,「一部近隣の参加者を入れて,会場+Webのハイブリット形式は可能かもしれませんが,それでも,学会場でクラスターが発生した場合には,その社会的な責任は極めて重いものになる」さらに,「新型コロナ感染症に直接対応されているインターベンションの医師,看護師さん,MEさん,放射線技師さんに学会に参加していただくことにはかなりのリスクが伴うことも考慮すると,早い時期に完全Web開催に舵を切る方が賢明な選択になると思いますし,むしろ,積極的に完全Web開催に切り替えることをお勧めします.」との意見をいただきました.さらに,賀来先生の予測では,第2波は7月から9月ごろ,第3波は11月末から1月ごろ,第4波が3月末から5月ごろで,感染の波を繰り返しながらこれから1年程度は収束するまでは感染の波が継続するとのことでした.ただ,コロナウイルスの変異等が起こっており,1年で収束するかは現時点では予想がつかないとのことでした.ちなみに,今後は2ヶ月~3ヶ月は東京の感染者は200~500名/日で続くとのことで,悪くすると1,000名/日を越えることが想定される.その後感染者数が減少し,少し間をおいて第3波,第4波と続き,2月から3月ごろがその谷間になる時期になる.開催の時期としてはその頃が良いのではないかとのご意見でした.この点を考慮し,2月中旬の時期で他の大きな学会等がなく,可能な日程を探しますと,2021年2月19日(金)から2月21日(日)の3日間のみになってしまいました.
2021年1月16日 CVIT2020のメイキング・ビデオの撮影(仙台市荒浜小学校にて)
とても風の強い寒い日でした.CVIT2020のメイキング・ビデオの撮影を震災遺構である仙台市の荒浜小学校の前で行いました.東日本大震災のことを,CVITの会員の方々に一人でも多く伝えたいと思い,2020年6月に仙台で開催する際には,震災遺構の見学としてバスツアーを設ける予定でいた場所です.その場所からメッセージを届けたく,荒浜小学校を撮影の場所に選びました.
2021年1月18日 CVIT2020でのライブ配信の中止
新型コロナの感染が拡大し,宮城県,福島県のコロナ陽性者の増加傾向が明らかとなり,ライブを行うかどうかを相談するために,2021年1月12日に臨時のライブ実行委員会を開催,さらに2021年1月14日にメディカル・コメディカル合同実行委員会を開催し,2021年2月19日に開催の予定としていたライブ(中継元は福島県郡山市の星総合病院)については,すべて中止(キャンセル)とする決定しました.
2021年2月13日 最大震度6強の福島県沖の地震
2021年2月13日23時08分福島県沖を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生しました.宮城県の蔵王町(ざおうまち),福島県の国見町(くにみまち),相馬市(そうまし),新地町(しんちまち)で最大震度6強を観測.仙台市内の震度は5強で,私の自宅も本棚からいくつかの本が落ちた程度でしたが,Web配信会場として予定していた仙台国際センターで天井が落ちる等の被害があり,Web配信会場として使用できるかどうか微妙な状況となりました.このため,仙台国際センターが使用できないと判断,急遽,以前配信場所として検討していた「TKPガーデンシティPREMIUM仙台西口」に変更することとしました.
2021年2月18日 配信開始
2021年2月18日午後4時,Web配信が始まりました.開会式と総会です.その日は,引き続き,会長講演,会長企画1「TRIの現在と未来」,会長企画2「メディカル・コメディカル合同シンポジウム」と午後9時の配信終了まで仕事が続きます.会長企画1では,オランダのキムニー先生にZoomで参加していただくことになっておりましたが,座長をしながら,順調に配信を行うことができるかどうかをただただ心配をしておりました.さいわい,この日は,一番心配をしていたWeb配信上の大きなトラブルはなく,無事に終了することができました.
2021年2月21日 安堵
最終の参加者数が5,196名であることを,運営を依頼していたJCSの松田一輝さんから報告されました.2021年2月21日午後5時40分,閉会式が終了した時は不思議と成就感はなく,ただ安堵感だけを感じておりました.CVIT2020を開催するにあたり,たくさんの方々のお力をお借りし,なんとかやり遂げることができました.この場をお借りし,あらためて深く御礼を申し上げます.最後に,木島幹博先生からのメールを紹介し,本稿を閉じたいと思います.本当にありがとうございました.
「学会を無事終了し,本当にご苦労様でした.コロナ禍で,かつ直前に大地震も発生し,大変な困難の中,とても立派に学会を開催し成功したことを心よりお祝い申し上げます.開会のご挨拶も,とても先生の人間味が溢れ出ており,感動いたしました.また,加藤先生を偲ぶビデオ,東北地方の会員の先生方のメッセージなど随所に先生の気持ちが表現されておりこれまでにない印象深い学会だと思っております.お疲様でした.しばらくは,ゆっくりできると良いですね.
木島幹博 拝」